あおきむねたかの新・堕落論

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「ちりとてちん」のオープニングテーマ曲が流れ、出囃子が鳴る。
 登場とともに割れんばかりの拍手が起こった。
 寸足らずの着物がばれないように正座をし、ていねいにお辞儀をした。

「ようこそのお運びで、厚く御礼申し上げます
 徒然亭草々でございます ムイントプラゼール!」

 えーブラジルにやってきました。まさに地球の反対側でございますね。
 本日はこのような会場まで提供してくださってまことにありがとうございます。
 あまりに立派な場所ですしこんなに人が来て下さってるんでね、途中逃げて帰ろかなとも思いましたが。
 ここにくる前にも何度か落語会をやらせていただいたんですが、
 入植して50年になるおじいさんに「草々兄さん!」と呼ばれまして。「兄さん」なんとも不思議な気分でした。
 先日はパラグアイのイグアス居住区でもやらせていただいたんですが、
 途中で停電になりましてね。はい。なんとか切り抜けたんですが、こちらは大丈夫ですかね?
 なぜ私がブラジルに来たかと申しますと、すべては縁とタイミングなのでございます。
 サンパウロ新聞で働いている友人から『NHKは南米でも放送されている』と聞きまして。
 私それがとてもショックでしてね、いやもちろんいい意味ですけど。
 もともと南米にも興味ありましたし、今年はブラジル移民100周年ということで
 こりゃ行かないかんやろと思い、やってきた訳でございます。
 途中にペルー、ブラジルはリオ、サルバドール、マナウスと回ってきたんですが、
 そりゃあもうここでは語り尽くせない、素晴らしい、ときに恥ずかしい体験をさせていただきました。
 ところで私、この目で確かめたいんですが『ちりとてちん』ご覧になった方、手をあげてもらえますか?
 はあはあはあ、視聴率120%といったところですね。まことにありがとうございます。番組関係者にいい報告ができます。
 あ、写真ですか?今のうちにバンバン撮っちゃって下さいね。もうじき落語に入りますので。
 あとひとつ申し上げますが、私いま着物着てみなさんの前にいますが、普段は役者をやっておりまして、
 落語家さんではありません。ですから落語も決してうまくありません。ゴメンナサイ。
 ですのでもし『さあ草々くん笑わせてもらおうか』と意気込んで来られた方がおられたら言っておきますが、
 それはもう大変に間違った、誤った姿勢なのでございます。
 そういう方はぜひ体の力を抜いてダラーっとして『ん?前のヤツなんかぼやいとるな』とこんな
 感じで聴いていただければ、もしかしたら1度か2度くらいは笑えるかも知れませんね。
 というわけで「道具屋」というお噺、一席おつきあい願います。

 「こんにちは!」
 「ああ、お前はんかいな、まあこっち入りー」

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しわくちゃの笑顔と優しい笑い声を体で感じながらある言葉を思い出した。

「ブラジルのこと『地球の裏側』なんていうけど、地球に表も裏もないんだよ」

本当にそう思った。ぼくの地球はずっと平らだ。




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